壁の向こうをのぞき込む代わりに火炎瓶を投げる

山本弘のSF秘密基地BLOG:アポロ陰謀論とかいう以前に

 これは驚異である。いや、脅威と言うべきか。義務教育が行き届いているはずの日本人の中にも、小学生レベルの科学知識もない人間が、どうもかなり高い割合で存在しているらしいのだ。
 根本的にこの社会について考え直さないといけないのかもしれない。

山本弘のSF秘密基地BLOG:アポロ陰謀論とかいう以前に

まぁそうなんだけど……。自分について考えると、その程度の科学的素養はある……だけど政治とか経済について、そういうレベルの素養があるか?というと怪しいものだ。小学生は政治や経済について学ばないけれど、基本的な素養として持っていなければならないレベル、という意味で。
あるいは美術について、音楽について、文学について、歴史について、外交について……自分は最低限の素養を持っているか?というとかなり自信がない。


実際のところ、すべての分野において「小学生レベルの知識」を維持することができる人間はほんの一握りだろう。ほとんどの人間は自分にとって関係がある、あるいは自分が興味を持っている分野にのみ、知識を拡大していき、他の分野については歯牙にもかけないのでは?
つまり「義務教育が行き届いているはずの日本人の中にも、小学生レベルの科学知識もない人間が、どうもかなり高い割合で存在しているらしい」ことは実は当たり前のことで、それほど危惧することはないのではないかと思う。悲しいことだけれど。


アポロ計画陰謀論 - Wikipediaをざっと眺めると、この陰謀論が広まったのは、欧米においては「TV局の悪ノリ」、日本においては「著名人のトンデモな主張」が原因であろう。
文中で例に挙げられている副島隆彦は政治評論家である。宇宙工学とも映像技術とも、何ら関わりのないバックボーンを持つ人間である。「小学生レベルの科学知識もない人間」であるとしても何ら不思議はない。


本当に問題なのは、次の3つのことではないだろうか。

  1. 「小学生レベルの知識もない」分野のできごとに対して、一方的な疑義を突きつける行為。
  2. ある分野で有名な人物が、異なる分野に対して1を行うこと。
  3. 2を大衆が信用してしまうこと。

疑義を突きつけるならば、まずその分野についての「小学生レベルの知識」を得ておくべき。そしてある分野での有名人の発言は他の分野については何の権威も持たないことを、大衆が認識すべき。
特に3つめは厄介な問題で、基本的な情報リテラシーであるにも関わらず、ほとんどの人がうっかりやってしまうのではないだろうか。


「情報の信憑性について判断する」ということは、現在は高校の「情報」科目で教えられているのではないかと思うけど、もっと早くていいと思う。
小学校高学年から中学卒業までの約6年をかけて、社会科の調べ学習あたりで、「これでもか!」というほど教え込むくらいでいいと思う。実際に信憑性を判断するのは難しくても、「信憑性を判断しなければならない」ということは教えておく必要があるのでは……
資料の信憑性について考えさせられた記憶は、少なくとも義務教育期間にはなかったように思うけど、どうなんだろう? 最近は教えてたりするのだろうか。


蛇足かと思うけど一応。私は教育分野について「小学生レベルの知識もない人間」でありながら、この文章において、一方的に疑義を突きつけた。