-1個

「マイナスの光子」が観測される | スラド サイエンス
/.Jは遅い方で、別ソースで何回か見たけど、よくわからなかった。
しかしここのコメントで、
Re:難しいねぇ (#1538397) | 「マイナスの光子」が観測される | スラド
を見て、元にしてる理論の方はなんとなくわかった。要点は、対消滅するルートを通っているはずなのに、対消滅せずにすり抜けているとしか考えられない、ということだろう。
でもこのパラドックスが、なんで「-1個」とかいう話になるのかがよくわからない。
多分マスコミ向けに、恐ろしく単純化した足し算のような形で示すとこうなりますよ的な説明をしたら、「マイナス一個」という言葉が一人歩きしたんじゃないかと思うけど……
位置づけとしては、ナノスコピックな量子系と、観測を伴うマクロスコピックな系との橋渡しに繋がるのかな。こういう研究を積み重ねることで、ミクロ系とマクロ系の違いが生じる理由がわかっていけばいい。


実験の論文を読むか。幸い、自由に見ることができるようになっている。

追記

実験の論文について。
これはHardyの思考実験の光子版である。図1で、光子が同時にBS3(Beam Splitter)に到達すると、2光子の干渉効果で、必ず両方とも同じ方向から出てくる。これが電子・陽電子対消滅に対応する。
Mach-Zehnder干渉計(MZ)を2つおいた装置を使って実験した。MZ1の経路の長さは、光子2がNO2を通ったときには破壊的な干渉効果によって、C1で光子が観測されないように調整してある。MZ2も同様に、光子1がNO1を通ったときには破壊的な干渉効果によって、C2で光子が観測されないように調整してある。
もし、C1とC2で光子が同時に観測されたら、

  1. C1で観測されたので、光子2はNO2を通っていない=O1を通った。
  2. C2で観測されたので、光子1はNO1を通っていない=O2を通った。
  3. つまり光子1と光子2は、(同時に観測されたので)「同時に」BS3を通った。
  4. 同時にBS3を通ったら必ず両方とも同じ方向から出てくる(最初に書いた)。
  5. しかし光子はC1とC2でそれぞれ別個に観測されている。
  6. 4と5は矛盾している。

ということになる。
「C1とC2で同時に観測される⇒矛盾」なのだが、観測されてしまった、というお話。


それでどうなるかというと、これまで考えられてきた「時間発展を崩さない限り、光子の経路は観測できない」というのを覆さなければならないように思えるけども、必ずしもそうではなく、"weak measurement"(弱観測)という考え方を導入することでうまく解決できる。
観測は系の状態を壊してしまうノイズのようなものだけど、同じ実験を多数繰り返して、その期待値を得ることで元の状態を推定することができる。
\hat{A}_w\equiv\langle\phi|\hat{A}|\psi\rangle/\langle\phi|\psi\rangle
と定義した\hat{A}_w\hat{A}のweak valueと呼ぶ。はっきりとは書いていないけど、観測前の状態を|\psi\rangleとすると、観測量が\langle\psi|\hat{A}|\psi\rangleとのことなので、\hat{A}は観測を表す演算子なんだろう。
この実験に当てはめると、図1の網掛け部分が「弱い観測」を適用する部分で、これらの領域に光子が侵入する状態は
|\psi\rangle = (|NO_1\rangle|O_2\rangle+|O_1\rangle|NO_2\rangle + |NO_1\rangle|NO_2\rangle)/\sqrt{3}
で、光子がC1とC2で同時に観測される状態は
|\phi\rangle = (|NO_1\rangle - |O_1\rangle)(|NO_2\rangle - |O_2\rangle)/2
= (|NO_1\rangle|NO_2\rangle - |NO_1\rangle|O_2\rangle - |NO_2\rangle|O_1\rangle + |O_1\rangle|O_2\rangle)/2
となる。
ここから計算すると式(4)が導けるらしい……ここでわからなくなった。
式(4)は恐らく\hat{A}_wの要素なんだろう。ケット-ブラの形は演算子であるにもかかわらずスカラー値なのはそのせいで、たとえば|O_1,O_2\rangle\langle O_1,O_2|は、\left(\hat{A}_w\right)_{ij}の添字i=j=O_1,O_2の場合なんだろう。
で、この矛盾した状態を表すことができるのは|NO_1,NO_2\rangle\langle NO_1,NO_2|=-1という負数から来ている、と書いてある。


で、"In this paper,"から本題が始まるのだが、ここからが全くもってわからないorz
qubit(量子ビット)を扱っていることはわかるのだが……。
最初の|\xi\rangle_mの式ですら意味が分からない。δとεはどこから来たんだろう? 後のほうも読むとかなり重要なパラメータのように見えるけど。しかも実験的に操作できるパラメータっぽい。
式(11)、(12)で定義されるR(k,l|φ)をグラフにしたのが図4で、観測の影響をゼロに近づけた極限で、R(NO1,NO2|φ)が-1.0へ向かっているのがわかる。これが、「マイナス1個の光子」と呼んでいる部分であろう。R(k,l|φ)は、外から与えられたk,lに対してφになる条件付確率を、δ22で正規化したものらしい。つまり、観測による影響をゼロに近づけた極限で、光子1と2が両方とも外側の経路NO1,NO2を通った確率が、-1ということ。確率が-1って。


この研究の本来のストーリーは、パラドクスがどうのとかマイナス1個の光子だとかいうことではなく、観測したら壊れてしまうqubitから、weak measurementの考え方を使って、うまく観測することができるよ、というもの。論文タイトルも、"Direct observation of Hardy's paradox by joint weak measurement with an entangled photon pair"*1だし。
ただ、そうして試してみた結果、Hardyのパラドクスとして当初想定されていたよりも、より深い「観測による矛盾(the paradox by observation)」がでてきてしまった、ということ。


難しいなぁ。何が難しいってマクロスコピックに量子現象を扱ってるのが難しい。式で書いてはいるけど、具体的な波動関数形状など登場も仮定もされていなくて、すべてが観念的・直感的(intuitive)なものだ。
やっぱり式(7),(8)あたりが納得いかない……。

*1:量子もつれ状態の光子対における、同時弱観測によるHardyのパラドクスの直接観測」とでも訳す感じ? 「同時」は同時確率(joint probability)から来ている。あんまりうまい訳じゃないな……